帯広コンテンポラリーアート2018
「河口」展 参加作家
長澤 裕子 Nagasawa Yuko |
「ヤシュウシナイゲンヤ
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2013年8月18日、75歳になる年、父は死んだ。 1938年10月21日に父が生まれてから6歳まで住んだ本籍地は 北海道紋別市沼ノ上ヤシュウシナイゲンヤ14線58番地。 八十士(ヤソシ)川の上流にそこは位置する。 ******************** 「河口」をテーマに制作するにあたり 父から生前その川の名前を聞いてから 何か。。ずっと引っかかっていたことが 今回、ここにつながってきたことを実感。 それは、父へのオマージュという個人的な感情よりも、 その川を調べるに従い確認できたいくつかのエピソードを 織り込み抽出し表現を試みることからまた派生するであろう いくつかのイメージをはらませる形になることを期待し 今回半ば物語風の作品とした。 ******************** 「八十士川ってところでは砂金が採れたんだ。」 本籍地、ヤシュウシナイ(現在は「八十士」)の地には八十士川が流れる。 山を越えたところにはかつて国内第三位に入るほど金がとれた鴻之舞鉱山。 その少し前から八十士川で砂金が見つかり 数多くの一攫千金を狙う者たちが 八十士川の上流までも来たという。 俗に言う、ゴールドラッシュ。 幼少時代の父親もまた、そのゴールドラッシュに群がる人々の様相を見ていたのだろう。 ******************** 「同じ集落には、アイヌと倭人とが混在して住んでいたんだ。」 小さな集落、また近くの町、学校等、差別されたアイヌ。 父はそんな差別もせずに同じ集落内で共に暮らしていたという。 そんな彼らは、突如として姿を消した。 ******************** 「ヤシュウシナイからもう少し海寄りの方に移り住んだんだ。」 小学校もきちんと出ていなかった祖父は 当時、このあたり一帯を抱えていた住友林業にあるきっかけで登用され 森の管理に就くことになり、 木の切り出しの指図から森林育成管理、飯場の管理と一年の半年以上は森じゅうを歩き回っていた。 管理とはいえ、所詮雇われ人の祖父に代わって 一年のうちのほとんど、家を守ることになった 祖母や父の兄弟姉妹と共にもう少し楽な暮らしを求め 少し海の方に移動することにしたようである。 父6歳、その下の叔父、生まれて間もなく。 川を海に向かって移動する。 沼地に砂利をいれ、土を入れ、土地を作っていく。 荒れ地を開墾し、畑を作っていく。 父は学校に通い、帰宅後は畑作業で忙しい親や兄姉の代わりに弟妹たちのためにまかないをする。 昭和48年に閉山した鴻之舞鉱山。 最盛期は13000人が住んだ鴻之舞地区は 閉山後ひと月足らずで人口ゼロの無人地帯となった。 今回私が訪れた、八十士川上流の八十士には 見たところ、2軒の家。 そこに行き着くまでは潰れた廃屋ばかりが立ち並ぶ。 ******************** 「私の中に流れる父の血は私の目を通して故郷を見たがっていた」 と現地にて痛感。 私に八十士を伝えた彼にとって、 何度も北海道を私と旅をしたのにここに行かれなかったこと。 思い残すことはこれで終わったのだろう。 ******************** この地、北海道、、に限らず 様々なエピソードはヒトとともにあり また 地と川と海と森と空とともにある。 ******************** 5年ほど前、、 2013年、父が死んで間もない展覧会において 聖域との区切り、留石として使用した 玉石は その後 2014年、 金色の玉石に形を変え空間を泳いだ。 2018年。 今回、その玉石とひと区切りするために 上流から河口まで川がようやく見える橋で共に撮影。 最後は河口の水の中に沈め 代わりに一つ、小さな白い石を手に入れて この作品はいったん区切りをつける。 ******************** 冬、極寒かつオホーツク海ならでわの 雪が降り流氷がやってくるこの地。 できればもう一度、河口に近い場所で この小さな白い石と撮影をして この作品の最後としようと思う。 ******************** また、この地上に生き 私達に命と記憶を残し続けてきてくれた ヒトへの感謝の気持ちを込めて。
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長澤 裕子Nagasawa Yuko |
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和寒町在住 1997年3月武蔵野美術大学大学院造形研究科彫刻コース修了。 |
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【 発表歴 】
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OBIHIRO CONTEMPORARY ART 2016 「ヒト科ヒト属ヒト」 「赤絨毯」Red Carpet
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OBIHIRO CONTEMPORARY ART 2015 「マイナスアート展」 「エイゴウ カイキ セン」
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